大阪地方裁判所 昭和60年(ワ)2243号 判決 1986年7月30日
原告
野田勝広
右訴訟代理人弁護士
細見茂
被告
古井正明
右訴訟代理人弁護士
船越孜
同
相内真一
主文
一 被告は原告に対し、金八〇万一五一八円及びこれに対する昭和五九年一一月一二日から完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。
二 訴訟費用は被告の負担とする。
三 この判決は、第一項に限り、仮に執行することができる。
事実
第一当事者の求めた裁判
一 原告
主文同旨の判決並びに仮執行の宣言。
二 被告
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
との判決。
第二当事者の主張
一 原告の請求原因
1 原告は、昭和四七年ころ被告に雇用され、被告が経営するファミリーレストラン「ビュッフェ」(以下本件店舗という。)でバーテン兼コックとして勤務し、昭和五九年九月末日退職した。
2(一) 原告は、右在職中、昭和五八年九月一日から昭和五九年八月末日までの間、別紙残業手当計算表の「残業時間」欄記載のとおり、少なくとも合計一四二〇時間の時間外労働をした。
(二) 然して、右時間外労働は、いずれも午前五時から午後一〇時までのものであったから、労働基準法三七条一項により、通常の労働時間の賃金の計算額の二割五分以上の率で計算した割増賃金が支払われるべきところ、右期間中の各月の割増賃金の基礎となる賃金(但し、各月の給与から残業手当及び家族手当を控除したもの。)及び右各月の所定労働時間数(一日の勤務時間を九時間としたもの。)の合計は、それぞれ別紙残業手当計算表の「割増賃金の基礎となる賃金」及び「所定労働時間数の合計」欄記載のとおりであるから、右各月の割増賃金の一時間当たりの金額は、同表の「割増賃金単価」欄記載のとおりとなり、従って、右各月の割増賃金の額は、同表の「割増賃金総額」欄記載のとおりであって、右期間中の割増賃金の合計額は、金一四四万四二六八円である。
(三) そうすると、原告は被告に対し、前記時間外労働に対する割増賃金として、合計金一四四万四二六八円を請求しうべきところ、被告から、右割増賃金の一部として、残業手当の名目で別紙残業手当計算表の「支給された残業手当」欄記載のとおり、合計金六四万二七五〇円の支払いを受けたので、これを控除すると、被告が原告に支払うべき未払いの割増賃金は、金八〇万一五一八円となる。
3 原告は、昭和五九年一一月一日被告に対し、右割増賃金八〇万一五一八円を一〇日以内に支払うよう催告したが、被告は、同月一一日までに右金員を支払わなかった。
4 よって、原告は、被告に対し、右割増賃金八〇万一五一八円及びこれに対する右催告期間経過後の昭和五九年一一月一二日から完済に至るまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。
二 請求原因に対する被告の答弁
1 請求原因1の事実は認める。
2 同2の事実はいずれも否認する。但し、原告主張の期間における勤務時間のうち、九時間を超える時間数の合計が原告主張のとおり一四二〇時間であることは認める。
3 同3の事実は否認する。
三 被告の抗弁
被告は、原告を本件店舗の店長として責任ある地位に処遇し、右地位に対して店長手当を支給していたものである。ただ、原告が従事する勤務時間が比較的長いので、一日一〇時間を超過する部分について、特に一時間当たり金六〇〇円の割合による残業手当を支給していたものである。従って、原告は、労働基準法四一条二号のいわゆる監督または管理の地位にある者に該当し、同法三七条一項の適用を受けないから、右規定に基づく原告の本訴請求は失当である。
四 抗弁に対する原告の答弁
抗弁事実中、原告が本件店舗の店長たる地位にあったこと、店長手当の支給を受けていたことは認めるが、その余は否認する。
即ち、労働基準法四一条二号にいわゆる「監督若しくは管理の地位にある者」とは、一般的には局長、部長、工場長など経営者と一体的立場にある者を指すが、その名称よりも勤務の実態から判断されるべきものである。換言すれば、労働時間、休憩、休日等に関する規制の枠を超えて活動することが要請される重要な職務と責任を有し、現実の勤務態様も労働時間等の規制になじまないような立場にあり、他方、賃金等の待遇面においても基本給、役付手当、ボーナス等の一時金の支給率等において、その地位にふさわしい待遇がなされている者が右の「監督若しくは管理の地位にある者」に該当するものと解すべきである。
然るに、原告は、その在職中、厳格に勤務時間の拘束、管理を受け、本件店舗において、コックはもとより、ウエイター、レジ係、掃除なども担当せねばならず、店長としての監督、監理の仕事は全体の仕事中の一小部分にすぎず、とても経営者たる被告と一体的立場にあるとはいえなかった。また、待遇面においても、本給等格別に優遇されていたわけではなく、店長手当なるものも金三万円にしかすぎず、原告の従事してきた時間外労働の時間数に比しても極めて不十分であった。従って、原告の右のような勤務実態等からすれば、原告は、右の「監督若しくは管理の地位にある者」には該当しないというべきである。
第三証拠関係
本件記録中の書証目録、証人等目録に記載のとおりであるから、これを引用する。
理由
一 原告の請求原因について
1 請求原因1の事実は、当事者間に争いがない。
2 同2の(一)ないし(三)の各事実についてみるに、原告が、昭和五八年九月一日から昭和五九年八月末日までの間、一日につき九時間を超えて就労した労働時間数が合計一四二〇時間であることは当事者間に争いがなく、その余の事実は、成立に争いのない(証拠略)、原告(第一、二回)及び被告各本人尋問の結果によればこれを認めることができ、他に右認定を左右するに足る証拠はない。
3 同3の事実についてみるに、原告本人尋問の結果(第一回)及び弁論の全趣旨によれば、右事実を認めることができ、他に右認定を左右するに足る証拠はない。
二 被告の抗弁について
1 労働基準法四一条二号のいわゆる監督若しくは管理の地位にある者とは、労働時間、休憩及び休日に関する同法の規制を超えて活動しなければならない企業経営上の必要性が認められる者を指すから、労働条件の決定その他労務管理について経営者と一体的立場にあり、出勤・退勤等について自由裁量の権限を有し、厳格な制限を受けない者をいうものと解すべきであり、単に局長、部長、工場長等といった名称にとらわれることなく、その者の労働の実態に則して判断すべきものである。
2 そこで、これを本件についてみるに、(証拠略)、原告(第一、二回)及び被告の各本人尋問の結果を総合すれば、原告は、本件店舗の店長として、本件店舗で勤務しているコック、ウエイター等の従業員六、七名程度を統轄し、右ウエイターの採用にも一部関与したことがあり、材料の仕入れ、店の売上金の管理等を任せられ、店長手当として月額金二万円ないし三万円の支給を受けていたことが認められるけれども(右事実のうち、原告が本件店舗の店長たる地位にあったこと、店長手当の支給を受けていたことは当事者間に争いがない。)、他方、原告は、本件店舗の営業時間である午前一一時から午後一〇時までは完全に拘束されていて出退勤の自由はなく、むしろ、タイムレコーダーにより出退勤の時間を管理されており、仕事の内容も、店長としての右のような職務にとどまらず、コックはもとよりウエイター、レジ係、掃除等の全般に及んでおり、原告が採用したウエイターの賃金等の労働条件は、最終的に被告が決定したことが認められるところであり、これら原告の労働の実態を彼此勘案すれば、原告は、本件店舗の経営者である被告と一体的な立場にあるとはいえず、前記「監督若しくは管理の地位にある者」には該らないというべきであるから、被告の抗弁は理由がない。
三 以上認定、説示したところによれば、原告の請求は、理由があるからこれを認容し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、仮執行の宣言につき同法一九六条を各適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 木村修治)
残業手当計算表
<省略>